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病院
●フィルタークリニク(シュツッツガルト)(Filder Klinik)
これまで見てきた4カ所のホスピスとは異なり、このクリニク(病院)はルドルフ・シュタイナーの思想に基づいて設立された総合病院である。219床を有し、医師38人、看護婦135人、その他各種のセラピストが20人という陣容で、シュタイナーの唱える人智学(アンソロポゾフィー)医療を提供している。
人智学医学とは、いうまでもなく人智学を基礎にしている。1861年から1925年に存命したシュタイナーは、6,000回余に及ぶ講演によって彼の思想をドイツのみならず、世界各地に広めたが、とくに教育についてはわが国でもよく知られている。
シュタイナーが唱えたのは、人間はどのように、あるいは何ゆえに生まれてきて、どのように成長し、生き、どのように死んでいくのか、そして死後どのようになるのかという問いに対する自身の考えだった。こがら人智学医学も生まれてきた。
人智学医学は、独自の薬物療法、芸術療法のほかにも、独自のマッサージや薬入浴、湿布などを用いる。もちろん、現代医学が有効の場合にはそれも積極的に活用する。
フィルタークリニクは、ドイツの南、シュツッツガルトの郊外にあるが、病院までのアプローチから病院建物の設計・院内の各所に細かく使い分けられた色彩まですべてシュタイナーの理論によっている。ドイツ各地からこの人智学医学を求めて集まってくる。
芸術療法が重視されているのは、「芸術療法における芸術的創造行為の目的は作品にあるのではなく、作品が生み出されていくプロセスそれ自体にあります。芸術的行為は、やむなく受け入れてしまった病気から患者を救い出し、患者自身の内なる能動性へと導きます。この能動性によって、不調和を取り除き、誤りを正し、混沌を秩序づけることを学び、一定の法則性に従うことを学んでいきます」(「人智学に基づく芸術療法の実際」エーファメース・クリストファー)というところにあるという。
シュタイナー思想に通暁しない私たち見学者はフィルダークリニクに具現化されている人智学医療を厳密な意味において理解できたとはいえないが、病む者をただ身体の異常として捉えるのでなく、魂(Seele)と精神(Geist)をあわせもつた一人の人間を癒すという視点をはっきりと感じとることができた。

 

 

 

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